本研究は文献調査と現地調査によりイタリアのミュージアム教育の概観を試みる。
研究の発端は、芸術家ブルーノ・ムナーリの教育に関する研究から生まれた、筆者のイタリアの子どものためのミュージアム教育への関心にある。
イタリアでは古来王侯貴族の収集品を保管する施設が近代国家成立後ミュージアムとして市民に公開され、19世紀から国民教育の装置として位置づけられるようになった。第二次大戦以後ミュージアムの教育と学校教育は分離され、1950年代からミュージアム教育のあり方を見直す議論が高まる中で「実践的活動を通じて能動的に学ぶ」教育が提案されるようになった。芸術家ムナーリによるブレラ美術館での子どものためのワークショップ(1977)はその嚆矢と位置づけられている。
2020年の新型コロナウイルスによる世界的パンデミックの影響下、イタリアの子どもミュージアムは連携して子どもに向けた感染防止の情報発信をいち早く行っている。この活動は学校教育と違ったかたちでミュージアムが社会に教育的貢献を行う力を持つことを示した。調査の及ぶ範囲においてイタリアの子どもミュージアムは公営より民間運営によるものが活発な動きを示しており、その多様な運営と活動の形態は、多様化しつつあるわが国の子どもミュージアムとその教育的活動のヒントとなると考えられる。