ブラジル・アマゾン地域のトメアスに移住した日系農家は1960年代から発生したコショウへの大規模な病害被害の後、コショウの耐病性を高めるとともに一年を通じて安定的に家計収入を得ることを目的として、コショウとともに多様な収穫サイクルの熱帯果樹を混植し、遷移型のアグロフォレストリー(SAF)を実践してきた。このSAFでは、日系農家がコショウと複数の熱帯果樹による様々な植栽パターンを試行錯誤で開発した。例えば、1年後に確実に果実を収穫できるバナナのような作物と数年後から収穫が可能となるカカオなどをバランスよく組合せている。また、地面に落ちたバナナの葉をカカオや他の熱帯果樹の肥料として活用するといった有機農業も実践している。
ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)東部アマゾン研究センターは1990年代にJICAの技術協力プロジェクト等を通じてこのトメアスの日系農家が実践するSAFの有効性を科学的に実証した。その結果、本SAFはアマゾン地域での荒廃地の回復及び森林保全と調和した持続的家族農業のモデルとして非常に有効であると結論付けた。
ブラジル・アマゾン地域には1964年から20年間続いた軍事政権時代に熱帯雨林地域が大規模に切り開かれた結果、広範囲に荒廃地が広がっており、アマゾン地域に住む人々の農業と熱帯雨林の回復・保全を両立させる方法として、トメアスの日系人農家が開発したSAFは極めて有効と思われる。 現在、日伯両国政府は三角協力のメカニズムである日伯パートナーシップ・プログラム(JBPP)を通じ、日伯両政府が協力してブラジルで研修コースを開催することにより、アマゾン地域を有する南米諸国の関係者に対し本SAFの経験・技術を伝えている。このような協力はアマゾン地域の熱帯雨林の回復と持続的利用の推進にとって重要なだけでなく、今後の南米アマゾン地域の安定と持続的発展のための日本の貢献としても益々重要である。